異形を愛する女と異形を愛する男

シェイプ・オブ・ウォーターの批判に「異形を愛するのは女ばかり」というものがある、という意見を目にしました。

……いや、シェイプ・オブ・ウォーターは「異形を愛した女の物語」ではなく「異形を愛した女と、異形を愛した男の物語」ではありませんこと?

だって、あの半魚人から見れば、イライザは異形じゃない?
イライザだけでなく「人間すべて」が異形じゃない?

たとえ相手が人間目線では絶世の美女だとしても、異形目線だと「醜悪な異形」に見えるのではないでしょうか?

こういうのは「立場を逆転させる」と解りやすいと思います

例えば美女と野獣の場合、逆転してみるというのは「呪いで野獣に代えられた美女」ではなく、「呪いで人間に変えられた野獣」です。

野獣と美男

愛を知らない獣の王子は、呪いでイケメンの人間オスに変えられました。真実の愛を見つけないと永遠に人間として生きる事になります。

そこに道に迷っていた、老いた野獣が城に迷い込んできました。ひ弱でおいしそうな人間を見て、老いた野獣は王子を食べようとします。慌てて王子は食事でおもてなしをし、満腹の老野獣を牢屋に閉じ込めました。

しばらくして、若いメスの野獣が訪れます。父である老野獣を探しに来ました。野獣基準の美女だったので、老野獣を開放する代わりに、若いメス野獣を城に留まらせ、求婚します。はじめは「食ってやる」と鼻息を荒く拒絶するメス野獣でしたが、だんだんひ弱な体のくせに威張り散らす王子が可愛く見えてきました。

しかし、父の老野獣が病に伏せている事を知ったメス野獣は、一週間後に帰ると約束して巣に帰ります。

巣に帰ったメス野獣でしたが、姉たちに城での暮らしぶりを嫉妬され、約束に間に合わないように仕向けてしまいました。

約束の期限を過ぎてもやってこないメス野獣。王子はとうとう悲しみのあまりに食事も取らず、死にかけていました。

そこに帰って来たメス野獣。その美しい姿を見た王子は「思い残す事はなにもない。僕を食べていいよ」と言います。しかしメス野獣は泣きながら「いいえ、あなたは私とつがいになるのよ!」と言いました。

そのとたん、ひ弱な王子はみるみる立派な野獣へと姿を変えました。つがいとなった二匹の野獣はいつまでもモフモフと幸せに暮らしましたとさ。

こうしてみると確かに女だけが異種に恋している物語です。最終的には同種ですが。

ではシェイプ・オブ・ウォーターはどうでしょう。

シェイプ・オブ・ランド

半魚人の国に連れ去らわれ、実験体にされている人間♂。そこの実験施設で掃除婦として働く半魚人♀と意思疎通し、助けられます。

彼女の巣にこっそりと連れてこられ、ペットの魚をウッカリ三枚に下して刺身にしちゃったり、部屋の水を抜いて、酸素ボンベ外して半魚人♀とチューしたり。

施設の半魚人に見つかって追われますが、最終的に命からがら半魚人♀と地上に逃げましたとさ。

……うん。やっぱりシェイプ・オブ・ウォーターは「異形を愛した男」もきちんと描いている。

そういう意味なら、「キングコング」もそうね。

……あと引き合いに出されていた「人魚姫」には確かに「異形を愛した男」はいない。でもあれはヒロインが異形とは気づいてない上に、そもそも愛してもいない。

人魚姫は異類婚姻譚と言えるのか?

王子目線で見たら、立場を逆転させるまでもなく「昔、嵐の中遭難した時に助けてくれたっぽい女性と結婚したら、その初夜に、妹みたいに可愛がっていた拾い子が姿を消した」ですもの。

なので、人魚姫は「人魚が異類に恋した話」ではあっても、テーマは異類婚姻譚というわけではないと思う。

そもそも原作人魚姫は「失恋して悩みから解放され、第二の人生をポジティブに生きる女性」でもあるのよ~……。

原作人魚姫のその後

人魚姫は、王子様を殺せば人魚に戻る事ができます。しかし王子様への愛ゆえに殺す事ができず、泡になって消える事を選びます。

しかし原作では消えたわけではありません。空気となった人魚姫は、海を見て悲しんでる王子と花嫁にそっとキスをして微笑むと、天国を目指します。

300年経てば天国に行ける。けれど親を喜ばせている良い子を見れば、それは一年縮み、親を悲しませてる悪い子を見ると一日延びます。

愛する王子と恋敵を祝福し、新しい目標に向かう健気な人魚姫。しかしその条件が、やはり童話というか……今だったら確実に問題になるやつですね。というかアンデルセンの童話は当時でも不評だったらしいです。

異類婚姻譚は異形を愛しているのか

そもそも、異類婚姻譚には、いくつかパターンがあります。

人間の女と異形の男

問題となっている、人間の女ばかりが異形の男を愛しているかというとそういうわけではありません。

まず娘のいけにえを欲したり、娘をさらう「異形の悪役」の場合、人間の女は徹頭徹尾拒絶します

知恵を駆使して逃げ出したり、自ら退治するか、後から来る勇ましいイケメンに退治してもらって結ばれます。

異形が異形のまま人間女に受け入れられて結ばれるのは、馬と結婚した「おしら様」の話でしょう。しかしこれは人間女の父親の反対にあい、馬は殺されてしまい、結局いつまでも幸せに暮らしましたとさとはなっていません。

異形男が人間に変身する

そして、もう一つが「実は異形だった」というパターン。こちらも最初は人間の高貴なイケメンかと思いきや……という事で、人間の女は拒絶して退治されます。

また「実は高貴な神様だった」というパターンもありますが、この場合は正体が見破られると神様は祀られている場所に帰ってしまい、残された遺留品や授けられた力で家が繁栄します。

またヨーロッパでは、天使男や妖精男で鶴の恩返しの男女逆パターンがありますが、こちらの場合は正体を見てしまった人間女は追いかけて、試練を乗り越えて再び結ばれます。

人間男が異形に変えられる

美女と野獣、カエルの王子など、このパターンはヨーロッパ圏に多いです。はじめは嫌がる人間女ですが、次第に異形男(元人間)に惹かれはじめ、愛を受け入れると異形男は魔法が解けてイケメン王子に戻るというパターンです。

日本ではとても珍しいですが「タニシ長者」はこのパターンです。

人間の男と異形の女

では、逆の「人間男」×「異形女」の場合はどうでしょう。

これは異形男×異形女よりパターン化されています。

動物を助ける→動物が美女に変身して恩返しする→正体がバレる→破局、という「鶴の恩返しパターン」です。

正体を見破ったあとも、人間男は「それでもかまわないから一緒にいよう」と言うのを、異形女は振り切って行ってしまいます。

たしかに最初は美女として登場しますが、イケメンとして登場して受け入れて、異形と分かったとたん拒絶する人間女より、人間男の方が異形を愛していると言えるような気がします……。

人間女が受け入れる異形は「美形で裕福な異形」ばかりのような……

異形を愛した男と女

最初の方で「シェイプ・オブ・ウォーター」は半魚人にとって人間は異形なのだから、「異形を愛した女と異形を愛した男の物語」であるという結論は出しました。

もしも本当に「異形を愛するのはいつも女だ」というのなら、その時点で「異形を愛するのはいつも男だ」という理論も成立するはずですよね。

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